下水処理場で処理された水は飲める?飲めない理由は水質基準の違い?詳しく解説

「下水処理場の水って、処理されてきれいになってるなら、飲めるのでは?」 そんな疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。

たしかに、家庭や工場などから出る生活排水は下水処理場で浄化され、川や海に放流されます。しかし、いくら処理されたとはいえ、その水は飲料水としての安全基準を満たしていないため、飲むことは推奨されておらず、法的にも認められていません。

最大の理由は、**水質基準がまったく異なる点にあります。**下水処理水は環境への放流を目的として処理されており、飲用を目的とした水道水とは異なる厳しい基準が適用されていないのです。

この記事では、下水処理水が飲用に適さない理由を、水質基準や技術的な背景、海外の事例などを交えて詳しく解説します。


なぜ下水処理水は飲めないのか?

最大の理由:水質基準の違い

結論から言えば、下水処理水は「飲用目的で処理されていない」ため、飲用は認められていません。

下水処理水と水道水では、求められている水質基準の厳しさが根本的に異なります。

▼ 水質基準の比較

項目 水道水(飲用) 下水処理水(放流水)
管轄法 水道法 下水道法
主な基準数 51項目+要監視項目(2024年時点。今後追加される可能性あり) 約13項目(施設規模・地域により変動)
微生物基準 大腸菌:“検出されないこと” 大腸菌群数3000以下/100mL(施設ごとに異なる)
有害物質 ヒ素・鉛・農薬・有機塩素等を厳格に規定 一部に指針値あり(義務化されていない場合も)
消毒基準 蛇口で残留塩素0.1mg/L以上が必要 消毒処理あり。ただし残留塩素の規定なし
処理目的 飲用・生活用としての安全確保 環境中への放流で自然への影響を抑制することが目的

このように、水道水は「人が毎日長期にわたり飲み続けても健康に影響がないこと」を前提として処理・管理されています。一方で、下水処理水は「河川や海に放流しても生態系や水環境に悪影響を与えないこと」が目的として設計・運用されており、飲用としての安全性は想定されていません。

また、水道法に基づく水道水の基準には、次のような詳細項目が含まれています:

  • 一般細菌:100CFU/mL以下
  • 大腸菌:“検出されないこと”
  • 有機塩素系化合物(トリハロメタンなど)の上限規制
  • 重金属(鉛、カドミウムなど)の厳格な基準値
  • 濁度、色度、臭気など、感覚的な項目も含めた管理

一方で、下水処理水は、下水道法に基づく放流水質基準さえ満たしていれば、飲用を前提としない限りは問題とはされません。この「処理対象と目的の違い」こそが、安全性の根本的な差を生み出す要因です。

高度処理でも完全な除去は困難なことも

近年では、膜ろ過やオゾン処理などの高度処理技術も一部の施設に導入されていますが、それでも次のような課題が残ります:

  • 病原性微生物(ノロウイルス、O-157など):処理が不完全な可能性がある
  • 医薬品成分やホルモン剤:一般的な処理では分解されにくい
  • マイクロプラスチックやナノ粒子:処理対象外で残留リスクがある

これらの物質は、人の健康に長期的な影響を及ぼす可能性があり、飲用水としての安全性を保証するには追加の処理と検証が必要です。

海外では飲用化も進んでいる?

日本は水資源に恵まれていますが、世界には深刻な水不足に直面している地域も数多くあります。そうした地域では、下水処理水の再利用、特に飲用水としての活用が現実的な対策として進められています。

■ シンガポール:NEWater(ニューウォーター)

慢性的な水不足に対応するため、シンガポールでは再生水の国家的プロジェクト「NEWater」が開発されました。
NEWaterは以下の高度処理を経て、安全性を確保しています:

  • 超精密ろ過(マイクロフィルター)

  • 逆浸透膜(RO)

  • 紫外線(UV)殺菌

これにより、工業用水や水道水源への注入に加え、一部は飲用ボトルとして市販もされています(※水道水としての直接使用は限定的です)。


■ アメリカ・カリフォルニア州:間接的再利用(IPR)

カリフォルニア州では、干ばつと人口増加への対応策として「間接的再利用(IPR)」が広く導入されています。
これは、高度処理された再生水をいったん地下水や貯水池に戻し、再度処理して水道水に利用する方式です。
ロサンゼルスやオレンジカウンティでは、これにより何百万人規模の水需要を支えています。


■ ナミビア:世界初の「直接再利用」(DPR)

アフリカ南西部のナミビア・ウィントフック市では、1968年から世界で初めて**処理水を直接飲料水として供給するDPR(Direct Potable Reuse)**が導入されました。
この方式は、水を貯留せずに直接水道水として供給する点で、非常に高い水質管理体制が求められます。現在も安全に運用され続けています。


これらの国々に共通するのは、

  • 慢性的な水資源不足

  • 高度な水処理技術

  • 社会的な理解と受容

  • 厳密な品質管理体制

が揃っているという点です。再生水の飲用化は、単に技術だけでなく、市民の信頼と透明性ある運用によって支えられています。

◆ 日本で飲用化が進まない理由

  • 水資源が比較的豊富で、飲用水の確保に困っていない
  • 処理設備のコストが非常に高く、採算が取れない
  • 住民の心理的抵抗が大きい(再生水=不衛生という印象)

そのため、日本では再生水は以下のような用途に限定されています。

  • 公園・道路の散水
  • トイレの洗浄水
  • 工場の冷却水
  • 災害時の生活用水(飲用以外)

まとめ:飲用化には高いハードルがある

  • 下水処理水は「飲めない」のではなく「飲用として処理されていない」
  • 飲用水と放流水では、目的も水質基準もまったく異なる
  • 技術的には可能でも、日本では制度・心理面・コスト面の課題がある

将来的には、災害対策や水資源の有効活用の観点から、飲用化が議論される可能性もあります。

しかし現時点では、下水処理水は飲用には適さず、自然環境への放流や一部の生活用途に限って再利用されているというのが実情です。

出典・参考資料

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