毎年夏が近づくとニュースなどで「出水期」という言葉を耳にすることがあります。でも、「出水期って結局いつのこと?」「自分の生活にどう関係するの?」と思っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、出水期の意味や期間、国土交通省が定めるルール、さらには私たちの日常生活への影響まで、できるだけわかりやすく解説していきます。河川工事に携わる方はもちろん、「川の近くに住んでいて洪水が心配」「防災について改めて勉強したい」という方にも役立つ内容になっています。
もくじ
出水期(しゅっすいき)とは?
「出水期」とは、読んで字のごとく、川の水が増えやすい時期のことです。正確に言えば、梅雨の長雨や集中豪雨、台風などの影響で降水量が多くなり、河川が増水しやすくなる季節を指します。
日本では四季がはっきりしていて、特に夏から秋にかけては雨が多くなります。梅雨前線が停滞して連日雨が降り続いたり、台風が立て続けに上陸したりと、川が氾濫しやすい条件が揃いやすい時期です。この「洪水が起きやすいリスクの高い季節」を一言で表したのが「出水期」という言葉です。
一方、出水期ではない時期は「非出水期(ひしゅっすいき)」または「低水期(ていすいき)」と呼ばれます。冬から春にかけての比較的雨が少ない時期がこれに当たり、河川工事などの大規模な土木作業はこの時期に集中して行われてきました。
出水期は梅雨・台風だけじゃない
「出水期=梅雨・台風」というイメージが強いと思いますが、雪国では少し話が違います。北海道や東北の山岳地帯、日本海側の豪雪地帯では、春先の雪解けの時期に大量の融雪水が川に流れ込み、河川が増水することがあります。
このため、北海道など積雪の多い地域では、雪解けが進む3月〜5月が「融雪期」として出水期に含まれる場合があります。地域によって出水期の定義が異なるのは、このような気候の違いを反映しているからです。
出水期はいつからいつまで?
一般的な目安は「6月〜10月」
国土交通省の管理する多くの河川では、出水期は6月1日〜10月31日として設定されています。ちょうど梅雨入りの頃から始まり、台風シーズンが一段落する10月末までというイメージです。
この期間は、梅雨前線の停滞による長雨、夏の集中豪雨、そして秋の台風という三つの「増水リスク」をすべてカバーしています。統計的に見ても、日本の河川で洪水が発生しやすいのはこの時期に集中しており、6〜10月を出水期と定めることには十分な根拠があります。
河川ごとに異なる出水期の設定
ただし、これはあくまでも「多くの河川」での目安であって、出水期の正確な期間は河川ごとに設定されています。たとえば豪雪地帯を流れる川では、融雪期の扱いをどうするかによって開始時期が前後したり、台風の影響を受けにくい地域では終了時期が早まったりするケースがあります。
同じ日本の川でも流れる地域の気候や地形によって、出水期の開始・終了時期は異なります。正確な日程を知りたい場合は、各河川を管理する河川事務所のホームページや担当窓口に確認するのが確実です。
「出水期の一覧表」は公表されていない
実は、全国の河川の出水期一覧表のような資料は、現時点では国土交通省から一般向けに公表されていません。個々の河川ごとに担当する河川事務所が管理しているため、特定の川の出水期を調べたい場合は、その川を管轄する事務所に問い合わせるか、各地方整備局のウェブサイトを確認する必要があります。
国土交通省が定める出水期のルール
ここからは、出水期にまつわる国土交通省の基準やルールについて詳しく見ていきます。特に河川工事との関係が深い部分ですが、防災の観点からも重要な内容です。
大原則:出水期は河川工事を原則禁止
国土交通省では長年、梅雨期や台風期など出水期には、原則として河川工事を行わないというルールを設けてきました。
理由はシンプルで、増水しやすい時期に川の中や川沿いで工事をしていると、洪水が発生したときに作業員が逃げ遅れたり、建設機械や資材が流されて大きな事故や二次被害につながるリスクがあるからです。また、工事中に堤防の機能が一時的に低下している状態で洪水が来ると、被害が拡大する恐れもあります。
そのため、河川工事の多くは出水期を避けた11月〜翌年5月頃の非出水期に集中して行われてきました。今でも基本的な考え方はこの「出水期は原則休止」です。
2017年の規制緩和:出水期でも施工できる工種が登場
ただし、近年この原則に変化が生じています。2017年(平成29年)度から、国土交通省は出水期でも一定条件を満たせば施工できる工種を指定し、国が直接管理する直轄河川を対象に、全国統一ルールとして運用を開始しました。
背景には主に二つの理由があります。
一つ目は「施工時期の平準化」という課題です。これまで工事が非出水期に集中しすぎていたことで、業者の繁閑差が激しくなり、働き方改革や人手不足への対応が難しいという問題がありました。非出水期だけに工事が詰め込まれると、どうしても余裕のない工期になりがちで、現場の負担も増えます。
二つ目は「気象・防災技術の進歩」です。近年は降雨観測の精度が上がり、数日先の大雨の予測が以前よりも正確にできるようになってきました。これにより、「洪水が来そうなとき」を事前に把握して安全対策を講じることが可能になり、出水期中でも条件付きで施工を認める土台が整ったのです。
出水期施工が認められる6つの工種
現在、国土交通省が出水期中でも施工を認めている主な工種(カテゴリー)は以下の6種類です。なお、今後さらに対象工種が見直される可能性もあるため、最新情報は各地方整備局または担当の河川事務所にご確認ください。
- 河道掘削・浚渫(しゅんせつ)工 ─ 川底の土砂を掘り下げたり、除去したりする工事
- 天端舗装工 ─ 堤防の上部(天端)をアスファルトや砕石で舗装する工事
- 工事用・管理用道路工 ─ 工事のための仮設道路を造る作業
- 土砂運搬工 ─ 掘削した土砂を運び出す作業
- 根固め(乱積み)工 ─ 河床や護岸の基礎を固める工事
- 樹木伐採・流木除去 ─ 河道内の樹木を切り、流木を取り除く作業
これらはいずれも、「洪水が予測されたときに速やかに施工前の状態に戻せる」「作業員や資機材を安全に退避させられる」という条件を満たすことが前提となっています。言い換えれば、「いざとなれば即撤退できる」工種に限って出水期施工が認められているのです。
出水期施工の前提条件:安全管理の徹底
出水期でも工事を行う場合、現場では以下のような安全対策が義務づけられます。
退避計画の策定 大雨や洪水の警戒情報が発令された際に、作業員・建設機械・資材などをどう安全に撤退させるかの計画を事前に立てておく必要があります。「どこに逃げるか」「誰が指揮をとるか」「どの順番で機材を片付けるか」まで具体的に決めておきます。
気象・水位の常時監視 気象予報と河川の水位・流量データを常時チェックし、危険な兆候があれば工事を即座に中断できる体制を整えます。国土交通省の水文水質データベースなどで観測データはリアルタイムに公開されており、現場での活用が求められます。
資材・機材の流出防止 万が一増水した場合に、建設機械や資材が川に流れ出さないよう、適切に固定・退避させる措置が必要です。流出した建設機械が下流の橋やダムに引っかかって二次被害を起こすケースも過去にあり、特に厳しく管理されています。
洪水注意報・警報への対応 洪水に関する気象情報が発令された場合には、水防活動の体制に準じた対応をとり、巡視を強化して異常があれば速やかに関係機関へ通報する義務があります。
出水期と私たちの暮らし:防災の視点から
ここまで主に「河川工事」との関係を中心に説明してきましたが、出水期は私たち一般市民の生活にも深く関わっています。
▶ 動画①で確認|国土交通省「洪水から身を守るには ~命を守るための3つのポイント~」
📺 動画タイトル:洪水から身を守るには ~命を守るための3つのポイント~(ダイジェスト版・8分)
📌 制作・配信:国土交通省(公式)
🔗 YouTube URL:https://youtu.be/g_o7EMukHD4
この動画は国土交通省が制作した洪水防災の啓発映像で、出水期を前にして「水害時の危険な状況」と「命を守るための3つのポイント」をわかりやすく解説しています。
ドラマ仕立ての映像で、川の増水がどれほど急激に進むか、家にとどまることのリスク、そして安全に逃げるために知っておくべき知識が、小学生でも理解できる言葉でまとめられています。
「水害って実際どんな感じになるの?」「洪水のとき、まず何をしたらいい?」という疑問を持つ方には特におすすめです。8分のダイジェスト版なので、家族そろって気軽に観られます。ぜひ出水期前の5月ごろに一度チェックしてみてください。
洪水・浸水リスクが高まる時期
当然のことながら、出水期は洪水・浸水のリスクが最も高い時期です。特に近年は気候変動の影響で、梅雨や台風の雨量が増加傾向にあると言われています。「100年に一度」と言われていた規模の豪雨が、数年に一度のペースで発生するようになっており、各地で甚大な被害が報告されています。
2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号(東日本台風)、2020年の令和2年7月豪雨など、記憶に新しい水害の多くは出水期に発生しています。河川の氾濫は一度起きると人命にかかわる重大な被害をもたらすため、出水期の防災意識を高めることは非常に重要です。
出水期前にやっておきたい防災チェック
出水期に入る前の5月ごろまでに、以下のことを確認・準備しておくことをおすすめします。
ハザードマップの確認 お住まいの市区町村が公表しているハザードマップを見て、自分の自宅や職場がどのような浸水リスクのエリアにあるか確認しておきましょう。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」ではインターネットから簡単に確認できます。
避難場所・避難経路の把握 いざというときにどこへ逃げるか、どの道を通るかを事前に決めておくことが大切です。特に高齢者や小さな子どもがいる家庭では、避難に時間がかかることを想定して早めの判断が求められます。
非常用持ち出し袋の準備 食料・水・薬・充電器・現金など、いざ避難するときに必要なものをまとめておきましょう。出水期前に中身を点検して、消費期限切れのものを入れ替えておくと安心です。
川の情報を受け取る設定 国土交通省の「川の防災情報」サイトや、お住まいの地域の防災メールに登録しておくと、河川の水位上昇や洪水警報をリアルタイムで受け取ることができます。スマートフォンのアプリも活用してみてください。
▶ 動画②で確認|国土交通省「マイ・タイムラインで逃げ遅れゼロ ~洪水からの自分の逃げ方を考えよう~」
📺 動画タイトル:マイ・タイムラインで逃げ遅れゼロ ~洪水からの自分の逃げ方を考えよう~
📌 制作・配信:国土交通省 関東地方整備局(みんなでタイムラインプロジェクト)
🔗 YouTube URL:https://www.youtube.com/watch?v=Umv_YWVwd3E
これは国土交通省関東地方整備局が推進する「マイ・タイムライン」の啓発動画です。マイ・タイムラインとは、台風や大雨の際に自分がどのタイミングで何をするかを事前に書き出した個人の避難行動計画のこと。
動画では「なぜ避難が遅れるのか」「どのタイミングで動けばいいのか」という本質的な問いに答える形で、マイ・タイムラインの必要性と作り方をわかりやすく解説しています。防災意識はあるけれど「いざとなったら動けるか自信がない…」という方にこそ見てほしい内容です。
出水期中は「早め早めの行動」が命を守る
水害で亡くなる方の多くは、避難のタイミングが遅れたことが原因とされています。「まだ大丈夫だろう」という油断が命取りになることがあります。
出水期中に大雨の予報が出たときは、次のことを心がけてください。
川の近くには絶対に近づかないこと。増水した川は流れが速く、見た目以上に危険です。特に子どもは川縁に近づけないようにしてください。
自治体から「避難指示」が出たら、ためらわずに行動することが大切です。「まだ大丈夫」ではなく「念のため早めに」という判断が、最終的に命を守ります。
夜間の避難は非常に危険なため、大雨が予想される場合は日が暮れる前に動くことを意識してください。
「非出水期」に行われる河川工事と生活への影響
出水期に工事が制限される分、非出水期(11月〜翌5月ごろ)は各地で一斉に河川工事が始まります。
川の近くをよく通る方は、この時期に堤防の強化工事や川底の掘削作業が行われているのを見たことがあるかもしれません。重機が並んでダンプカーが行き来する光景は、まさに非出水期の風物詩とも言えます。
これらの工事は、普段は「渋滞が増えてちょっと不便」と感じることもあるかもしれませんが、堤防を強くしたり川底を掘って流量を増やしたりすることで、出水期の洪水リスクを少しでも下げるために行われています。工事の意義を知っておくと、不便さへの理解も変わってくるのではないでしょうか。
また、前述の通り近年は出水期にも施工できる工種が拡大されてきたことで、1年を通じて工事が分散されるようになってきています。これは建設業界の働き方改革にも寄与しており、より安全で計画的な施工体制が整いつつあります。
▶ 動画③で確認|国土交通省「キヌとカイと学ぶマイ・タイムライン」
📺 動画タイトル:キヌとカイと学ぶマイ・タイムライン
📌 制作・配信:国土交通省 関東地方整備局(みんなでタイムラインプロジェクト)
🔗 YouTube URL:https://youtu.be/ctSJqjKF-3E
「キヌ」「カイ」というキャラクターが登場するこのアニメ動画は、鬼怒川と小貝川の名前をモチーフにした親しみやすいキャラクターが、マイ・タイムラインの考え方や洪水のリスクをわかりやすく説明してくれる内容です。制作・配信は国土交通省関東地方整備局で、まさに”公的機関による防災啓発動画”として信頼できる内容です。
大人だけでなく、小学生のお子さんと一緒に観られる内容になっているので、「子どもに水害について話す機会をつくりたい」と思っている保護者の方にもぴったりです。出水期を前に家族で防災について話し合うきっかけとして、ぜひ活用してみてください。
まとめ:出水期を正しく理解して、備えを万全に
改めてポイントをまとめます。
出水期とは、梅雨・集中豪雨・台風などにより河川が増水しやすい時期のことで、一般的には6月〜10月が該当します。雪国では融雪期(3〜5月)が出水期に含まれる場合もあります。
国土交通省の基準では、出水期中の河川工事は原則禁止とされていますが、2017年以降は一定条件下で施工できる工種が緩和・拡大されています。ただしその前提には、退避計画の策定や気象監視の徹底といった厳格な安全管理が求められます。
私たちの生活にとっては、洪水・浸水リスクが最も高い時期であることを意識し、ハザードマップの確認や避難計画の準備を出水期前に済ませておくことが大切です。
気候変動の影響で、近年の水害はますます激甚化しています。「出水期」という概念を正しく理解し、毎年この時期を迎えるたびに防災意識を新たにすることが、自分と家族を守る第一歩です。