私たちの生活を支えるインフラには、さまざまな種類の「管(パイプ)」が使われています。上下水道や道路下の配管、工場設備など、目に見えないところで機能しています。
これら管の種類のなかでも有名な管が「鋳鉄管(ちゅうてつかん)」です。
この記事では、鋳鉄管とは何か、どのような場面で使われてきたのか、そして鋼管やダクタイル鋳鉄管との違いについて、一般の方にもわかりやすく解説します。
もくじ
鋳鉄管とは?
鋳鉄管とは、鉄を高温で溶かし、型に流し込んで冷やし固める「鋳造(ちゅうぞう)」という方法で製造されたパイプです。使用される「鋳鉄」は炭素を多く含む鉄合金で、硬くて摩耗に強い一方、引張や曲げには弱く、割れやすいという性質を持ちます。
かつては水道や下水道など、地中に埋設する用途で広く使用されていましたが、現在では、より柔軟性や耐震性に優れたダクタイル鋳鉄管や塩化ビニル管(PVC)などが主流となっており、鋳鉄管が新設で使われることはほとんどありません。
ただし、昭和〜平成初期に整備された都市部では、既設の鋳鉄管が今も多数残っており、点検・補修・更新の対象として重要な存在となっています。
【参考動画】
学芸員がわかりやすく展示解説してくれる東京都水道歴史館の動画です。鋳鉄管の構造と役割をイメージしやすくなります。
主な用途や特徴
鋳鉄管は、次のような用途で使用されてきました:
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下水道管:地中に埋めるため、鋳鉄の脆さが大きな問題になりにくい。
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雨水排水管:建物や道路の雨水を処理するための管。
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工場配管:耐摩耗性や耐薬品性が求められる箇所。
鋳鉄管には、以下のような特徴があります:
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高い耐摩耗性:砂や土、汚水などが流れてもすり減りにくい。
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優れた耐圧性:土圧や水圧に対して高い強度を持つ。
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加工しにくい:切断や接合には手間がかかる。
耐久性とコストのバランスに優れていたことから、鋳鉄管はかつて多くのインフラ整備で採用されてきました。
規格とサイズ
鋳鉄管には日本産業規格(JIS)が定められており、たとえば**JIS G5525(排水用ねずみ鋳鉄管)**では寸法や強度、接合方式などが詳しく規定されています。
サイズは、内径100mm前後の小口径から500mmを超える大口径までさまざまで、接合方法には以下のような種類があります:
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差し口式(ゴム輪接合)
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フランジ式(ボルト締結)
鋼管との違いは?
「鋼管」は、炭素の含有量が少ない鋼(スチール)で作られた管で、引張や曲げに強く、加工もしやすいという特長があります。
項目 | 鋳鉄管 | 鋼管 |
---|---|---|
材質 | 炭素を多く含む鋳鉄 | 炭素を少なく含む鋼 |
強度 | 圧縮に強く割れやすい | 引張・曲げに強く粘りがある |
加工性 | 加工が難しい | 加工しやすい |
主な用途 | 下水道・排水管 | 水道・ガス管・構造部材など |
ダクタイル鋳鉄管との違いは?
「ダクタイル鋳鉄管」は、鋳鉄に**球状黒鉛(きゅうじょうこくえん)**というまるい炭素の粒を含ませることで、割れにくく粘り強い性質を持たせた管材です。
通常の鋳鉄では、炭素がトゲのような形(片状黒鉛)で存在しており、これが割れやすさの原因になりますが、球状にすることで応力が集中せず、耐久性が大きく向上します。
耐震性や施工性に優れ、現在の上下水道管では標準的に使用されています。
※「ダクタイル(ductile)」とは、英語で「粘り強い」「延性のある」という意味で、地震などで地面が動いても割れにくい性質を表します。
項目 | 鋳鉄管 | ダクタイル鋳鉄管 |
---|---|---|
強度 | 割れやすく脆い | 割れにくく粘りがある |
柔軟性 | 低い | 高く、地震に強い |
主な用途 | 下水道管(古い施設) | 水道管・耐震管路など |
【参考動画】現場での接合作業を見てみましょう:
日本ダクタイル鉄管協会の動画では、ダクタイル管のGX形の接合手順がわかりやすく解説されています。
まとめ
鋳鉄管は、日本における上下水道インフラを支えてきた、まさに基盤の一部ともいえる歴史のある管材です。
高度経済成長期をはじめ、多くの都市や住宅地の整備において広く用いられ、全国の地中に張り巡らされた無数の鋳鉄管が、長年にわたり人々の生活を支えてきました。
近年では、より高性能で耐震性や施工性に優れたダクタイル鋳鉄管や合成樹脂管などが登場し、新設工事で鋳鉄管が使われることはほとんどなくなりました。
技術の進歩に伴い、その役割を少しずつ終えつつある存在ではありますが、それでも既設の管路として今も現役で使われている箇所が少なくありません。
そうした意味で、鋳鉄管の知識や特性を理解することは、インフラの維持管理や老朽化対策を考えるうえで今なお非常に重要なのです。
もし街中で道路の掘削工事や水道の更新工事を見かけたとき、その地下には数十年前に敷設された鋳鉄管が、今もなお役割を果たしているかもしれません。