私たちが暮らす街の地下には、普段の生活ではほとんど目にすることのない“通り道”が広がっています。そこには雨水や生活排水が流れています。こうした水を安全かつ確実に処理場へ運び、浸水被害や衛生環境の悪化を防いでいるのが、「管渠(かんきょ)」と呼ばれる構造物です。
一方で、同じように水やガス、電気などを通す「管(かん)」という言葉も耳にします。この2つは似ているようで、意味や役割は大きく異なります。本記事では、管渠とは何か、その役割や構造、そして管との違いを、法律の定義も踏まえて、わかりやすく解説します。
もくじ
管渠(かんきょ)とは?
管渠(かんきょ)とは、下水道や排水施設などで使われる、大型の管状または水路状の構造物のことです。材料は鉄筋コンクリートや鋼など強度の高いものが用いられ、汚水や雨水、河川水などを効率的に運ぶ役割を果たします。
◯漢字の意味
「管」=水やガスなどを通す筒状のもの
「渠」=水路・用水路のこと
◯構造物の例
ボックスカルバート型:四角い断面のコンクリート製水路
大口径ヒューム管型:直径1〜3m以上の円形管
地下雨水トンネル型:都市の浸水対策用の巨大トンネル(首都圏外郭放水路など)
管(かん)との違い
「管(かん)」は一本単位のパイプやチューブのことを指します。素材は金属、塩化ビニル、ポリエチレンなどさまざまで、用途も給水、ガス、電気など幅広く、サイズや規格も目的に応じて異なります。製品や部材としての性格が強いのが特徴です。
一方で「管渠」は、こうした管を部材として用いた一つの施設・構造物を指します。管渠は、単独のパイプにとどまらず、周囲の構造や付属設備を含めた「路線」として計画・施工・管理されます。
鉄道に例えると、レールが「管」にあたりますが、線路全体はレールだけで構成されているわけではありません。枕木やバラスト、分岐装置、駅やホームといった施設も含まれます。この線路全体に相当するのが「管渠」です。つまり、「管」は部材、「管渠」はそれらを組み合わせて機能を発揮する完成形の構造物と考えるとわかりやすいでしょう。駅や分岐装置は、下水道でいえばマンホールや接合部にあたります。
管路施設との違いは?
管渠や管と似たような言葉で「管路施設(かんろしせつ)」があります。管路施設とは、下水道の中で汚水や雨水を集め、ポンプ場や処理場、あるいは河川などの放流先まで安全に運ぶための設備群の総称です。
社団法人日本下水道協会が発行する『下水道維持管理指針』では、管路施設を次のように定義しています。
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管きょ、マンホール、雨水吐室、ます、取付管などの総称
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汚水や雨水を収集し、ポンプ場、処理場、または河川などの放流先まで導くための施設
つまり、管路施設は地下に設けられた「水の通り道」全体を構成するもので、単に水を流すパイプ(管)だけではなく、その周囲の構造や点検・維持のための設備も含めた包括的なインフラを指します。
この中核を担うのが「管渠(かんきょ)」であり、管渠は本管として水を運びますが、それを支えるマンホールやます、取付管などが一体となって機能を発揮します。逆にいえば、管渠だけでは下水道の役割は果たせず、これら付属施設と組み合わさることで初めて、汚水や雨水を安全に処理場や放流先へと届けることができるのです。
違いを表でを整理
管、管渠、管路施設の違いを表で整理しました。
項目 | 管(かん) | 管渠(かんきょ) | 管路施設 |
---|---|---|---|
意味 | 一本のパイプやチューブなど、単体の部材 | 雨水や汚水を流すための本管(排水管+排水きょ) | 管渠に加え、マンホール・ます・取付管・吐口などを含む総称 |
用途 | 給水、ガス、電気、通信など多用途 | 主に下水道(汚水・雨水) | 下水道の通水・点検・維持管理全般 |
スケール感 | 部品レベル | 構造物レベル | 施設全体 |
構成要素 | 素材:金属、塩ビ、PEなど | 管+接合部+周囲の構造 | 管渠+マンホール+ます+取付管+吐口など |
管理主体 | 設置者(上下水道局、ガス会社など) | 公共下水道管理者 | 公共下水道管理者 |
例え | 鉄道のレール1本 | 鉄道の線路全体 | 線路+駅・信号設備など一式 |
暮らしを支える見えないネットワーク
管渠は私たちの足元にありますが、日常生活で直接目にすることはほとんどありません。見えるのは、道路にある丸いマンホールのふたや側溝の集水口くらいです。その下には管渠があり、雨水や生活排水を処理場や放流先まで安全に運んでいます。
全国の下水道管路の総延長は**約50万キロメートル(令和5年度末・国土交通省)**にも及び、日本全土に張り巡らされた巨大なネットワークを形成しています。これらの施設は常に健全な状態を保たなければならず、各自治体では定期的な点検や清掃、老朽化した部分の補修や更新を計画的に実施しています。近年では、大規模地震や集中豪雨に備えて、耐震化や排水能力の向上も急務となっています。
工事と維持管理の現場
下水道全体の仕組みを知ると、管渠の役割も見えてきます。以下の動画では、生活排水がどのように集められ、処理されていくのかをわかりやすく説明しています。
こちらは栃木県宇都宮市で行われた下水道管渠の耐震化工事の映像です。老朽化や地震への備えとして、地下でどのような工事が行われているのかがわかります。
まとめ
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管=一本のパイプ(部材)
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管渠=通水構造物全体(本管+付属設備)
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管路施設=管渠に加え、マンホールやます、取付管などを含む総称
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管渠は街の安全と衛生を守る重要なインフラであり、耐震化や更生工法による延命が進められている
普段は見えない存在ですが、「管渠」という言葉を知ると、道路の下やマンホールの先に広がる見えないインフラの存在を、少し身近に感じられるはずです。