下水処理やし尿処理、産業排水の処理現場でよく聞く言葉に「脱水汚泥」と「脱水ケーキ」があります。
どちらも汚泥処理の過程で生じるものですが、「この2つは何が違うの?」と疑問に思ったことはありませんか?
この記事では「脱水汚泥」と「脱水ケーキ」の違いをわかりやすく解説します。
もくじ
そもそも汚泥とは?
汚泥とは、下水処理や工場排水処理の過程で発生する、微生物や有機物、無機物などを含んだ泥状の物質です。
水分を多く含み、放置すると悪臭や病原菌の発生源となるため、適切な処理が必要です。
汚泥処理の主な工程
1. 濃縮:汚泥の水分をある程度取り除き、体積を減らす。
2. 消化:微生物の働きで有機物を分解し、安定化させる。
3. 脱水:さらに水分を除去し、固形分の割合を高める。
4. 乾燥・焼却・再利用:最終処分または資源化。
この中で「脱水」の工程が、今回のテーマである「脱水汚泥」と「脱水ケーキ」に関係し
ます。
脱水汚泥とは?
「脱水汚泥」とは、下水やし尿などに含まれる微細な粒子や有機物を含んだ「汚泥」を、専用の装置で脱水し、含水率を下げた状態のものです。
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水分率:約70〜85%
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見た目はドロドロしていて、スコップですくえるような粘性
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使用装置:ベルトプレス脱水機、遠心脱水機、スクリュープレス脱水機など
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使用場面:設計書・技術報告書・環境影響評価などの技術的文書
たとえば「処理施設において脱水汚泥の含水率を80%以下に保つこと」など、正確な数値管理が求められる場面で使われます。
脱水ケーキとは?
一方で「脱水ケーキ」は、上記の脱水汚泥のうち、実際に装置から排出された後の“固形状に近い状態を表す言葉です。
ケーキという名前の由来ですが、英語で「ケーキ:cake」とは、洋菓子のケーキの意味で使われることが多いですが、「かたまり」という意味もあります。
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ケーキ(cake)=「押し固められた塊」
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板状や円柱状など、明確な形状を保っている
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トラックへの積み込みや運搬がしやすい
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現場では「ケーキの積み込み」「ケーキ量」として使われる
処分場へ運ぶ際の計量単位や、運搬契約での記述としても「脱水ケーキ」の表現がよく使われています。
例えで理解する:「泥団子」と「型抜きプリン」
この2つの違いを、子どもの遊びにたとえてみましょう。
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脱水汚泥=ドロドロの粘土(まだ形が定まっていない)
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脱水ケーキ=型に詰めて取り出したプリンやゼリー(固まった状態)
素材は同じでも、どの工程か・どの状態かで呼び方が変わる、というわけです。
▼関連動画:脱水ケーキの実物を動画で見る
実際の脱水機(JD型)の稼働映像で、脱水ケーキがどのように排出されるかが見られます。
脱水装置によっても状態が変わる
脱水ケーキの状態は、使用される脱水装置によっても異なります。
装置の種類 | 特徴 | 出てくる汚泥の状態 |
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ベルトプレス式 | 布で挟んで圧搾 | 柔らかめの板状ケーキ |
遠心脱水式 | 遠心力で水分を分離 | やや湿った泥状ケーキ |
スクリュープレス式 | ネジ状の押し出しで脱水 | 比較的しっかりした円柱状ケーキ |
▼関連動画:脱水機の仕組み
装置ごとの違いや、実際の装置の動きが見られます。
公文書では「脱水汚泥」が基本
環境省や国土交通省が発行する設計指針・基準類では、「脱水汚泥」という用語が使用されるのが一般的です。
一方で、実際の運用現場や自治体の契約書などでは、「脱水ケーキ」という用語も並行して使われていることがあります。
現場での使い分けの実態
シーン | 使用される用語 | 具体的な例 |
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設計・報告書 | 脱水汚泥 | 含水率の管理、汚泥量の計算 |
運搬・処分契約 | 脱水ケーキ | 「ケーキ1m³あたり○円」として契約 |
作業現場 | 脱水ケーキ | 「ケーキの積込み完了」「ケーキ多いね」 |
関連する類似用語にも注意
用語 | 意味 |
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原汚泥 | 処理前の未処理汚泥 |
余剰汚泥 | 活性汚泥法で微生物が増殖して余った汚泥 |
脱水汚泥 | 汚泥を脱水処理したもの全般 |
脱水ケーキ | 脱水汚泥の中で特に固形に近いもの |
焼却灰 | 脱水ケーキを焼却処理した後の残渣 |
まとめ:脱水汚泥と脱水ケーキの違いとは?
項目 | 脱水汚泥 | 脱水ケーキ |
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含水率 | 60〜85% | 同じ(固形感が強い) |
状態 | 半固形〜ペースト状 | 板状・塊状の固形物 |
工程上の位置 | 脱水処理途中を含む広義の概念 | 処理機から出た完成形の固形汚泥 |
用語の使用場面 | 報告書・技術資料などで広く使用 | 実務現場で使用、物理的な形状を表す際に使用 |
使い分けのポイント
- 処理工程が同じ:どちらも「脱水処理後」の物質であるため、混同されやすい。
- 水分含有率が近い:数値的な違いが明確でないため、区別が曖昧になりがち
- 現場での使い分けが曖昧:施設や業者によっては、両者を同義語に使うこともある。
- 報告書や統計資料では「脱水汚泥」が使われることが多い(処理量や発生量を示すため)
- 現場作業や運搬では「脱水ケーキ」という表現が使われやすい(物理的な形状を重視)