し尿処理施設とは?下水処理との違いを解説!

私たちが毎日使っているトイレ。その排せつ物は水で流されて目の前から消えますが、実はその先には「し尿処理施設」という社会インフラが存在しています。しかし、同じく「下水処理場」も耳にしたことがある方は多いでしょう。どちらも汚水を処理しているように思えますが、この2つの施設は役割も仕組みも異なります。本記事では、「し尿処理施設」とは何か、そして「下水処理施設(下水処理場)」との違いについて、土木・環境分野の視点からわかりやすく解説します。

し尿処理施設とは

し尿処理施設とは、バキュームカーなどで収集された「し尿(しにょう)」を処理する施設のことです。「し尿」とは、人間の排せつ物のうち、し尿浄化槽やくみ取り式トイレで発生する糞尿を指し、生活排水を含まない比較的濃縮された廃棄物です。
日本では下水道が未整備の地域や、山間部・離島などのくみ取り式トイレが今も一定数残っており、そこから集められたし尿を安全に処理するための施設が必要となります。

し尿処理施設では、主に以下のような工程を経て、し尿を無害化・安定化し、最終的には水と汚泥に分離して処理します。

  • 受け入れ・前処理(ごみ除去・濃度調整)

  • 生物処理(活性汚泥法などで有機物を分解)

  • 汚泥処理(脱水、乾燥、焼却)

  • 処理水の放流(河川などに放流できる水質に)

近年では、高度処理によって脱水汚泥を肥料や燃料に再資源化する取り組みも進められています。

下水処理との違い

一方、下水処理とは、下水道を通じて流されてきた「下水」を処理する仕組みです。ここでいう「下水」には、し尿に加えて台所・風呂・洗濯などから出る生活排水(雑排水)や、雨水が含まれている場合もあります。
下水処理場は都市部を中心に整備されており、処理対象は広範囲かつ多量。水質も薄いため、大規模で効率的な処理プロセスが求められます。

両者の違いを整理すると、以下の通りです。

比較項目 し尿処理施設 下水処理場
主な対象 くみ取りトイレ・浄化槽のし尿 トイレ・台所・風呂などの下水
排水経路 バキュームカーなどで収集 下水道管を通じて流入
処理方法 高濃度汚水向けの専用処理 大量・低濃度汚水の効率的処理
地域的傾向 下水道未整備の地域(離島・山間部など) 都市部など下水道整備済地域
再資源化の傾向 汚泥の肥料化・焼却灰の建材利用など 同様に進むが大規模な処理が主流

重要なのは、し尿処理施設は「集めて処理する」方式であり、下水処理場は「流して処理する」方式である点です。また、両者の処理対象や運用体制も異なるため、制度的にも法律上の位置づけが異なります(し尿処理は主に廃棄物処理法に基づきます)。

バキュームカーで集めたものは下水処理施設に持っていけないのか?

「し尿をバキュームカーで集めるのはわかるけど、それをそのまま下水処理場で処理できないの?」という疑問を持つ方もいるでしょう。
結論として、原則として、バキュームカーで収集されたし尿は下水処理場では処理できません

その理由は、下水処理場が処理を前提としているのは比較的希釈された汚水であるためです。バキュームカーで集めたし尿は濃度が非常に高く、BODや窒素分などの有機負荷も大きいため、そのまま下水処理場に投入すると処理プロセスに支障をきたす可能性があります。

また、下水処理場は「連続的な流入」を想定した設計のため、バキュームカーのような突発的で高濃度な汚水を一度に搬入されることに適していません。

ただし例外的に、「し尿・下水共同処理施設」と呼ばれる施設では、バキュームカーで搬入されたし尿を前処理したうえで、下水と混合して処理できる設備が整っています。こうした施設は全国的には少数派でしたが、近年では増加傾向にあり、千葉県などでは2023~2027年度に複数のし尿処理施設を廃止し、下水処理場へ統合する計画が進行中です。

このように、技術的に可能であっても、運用設計上の制約から原則として両者は別施設で処理されている、というのが現状です。

尿処理施設はなぜ今も必要なのか?

「下水道があれば、し尿処理施設はいらないのでは?」と疑問に思う方もいるでしょう。しかし、全国すべての地域に下水道を整備するには、莫大な費用と時間がかかります。特に人口の少ない山間部や過疎地域では、下水道よりもし尿処理施設の方が現実的かつ持続可能なインフラとして重宝されています。

また、浄化槽を使用している家庭では、年に数回バキュームカーによる汲み取りが必要です。これらのし尿を受け入れて安全に処理するため、し尿処理施設の存在は今後もしばらく不可欠です。

加えて、災害時などで下水処理施設が停止した場合、一時的にし尿処理施設が代替機能を果たすこともあります。実際に、大規模災害時には仮設トイレのし尿が集中し、既存のし尿処理施設が緊急対応を担った事例もあります。

地方自治体ごとの取り組みと課題

し尿処理施設は、多くの場合、地方自治体が管理・運営しています。中には、下水処理場とし尿処理施設を統合し、効率化を図る「し尿・下水共同処理施設」を設けている自治体もあります。こうした施設では、インフラ投資を抑えつつ、安定した処理と資源化を進めることが可能です。

一方で、人口減少に伴うし尿量の減少、施設の老朽化、運搬コストの増大、技術者の高齢化など、複数の課題も指摘されています。今後は、再資源化技術の導入や広域化による効率的運用がますます求められていくでしょう。

まとめ

し尿処理施設は、私たちの生活と切り離せない重要なインフラです。下水処理場とは役割や構造が異なりますが、共に「水の再生」や「衛生の確保」に欠かせない存在です。特に、下水道未整備地域では、し尿処理施設が地域の衛生環境を支える最後の砦となっています。

下水道が普及した今でも、し尿処理施設の役割は終わっていません。むしろ、災害対応や地方の持続可能な生活環境維持において、その存在価値はますます高まっています。この記事が、あなたの理解を深め、社会インフラの裏側に関心をもつきっかけになれば幸いです。

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