「砂防堰堤(さぼうえんてい)」「砂防ダム」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
山間部を歩くと、谷や川を横断するコンクリートの壁のような構造物を目にすることがあります。
それが砂防堰堤です。一見するとダムに似ていますが、その目的や構造は大きく異なります。
本記事では、砂防堰堤の基本的な役割から、よく混同されがちなダムとの違いまで、現場経験をもとにわかりやすく解説します。
もくじ
砂防堰堤(さぼうえんてい)/砂防ダムとは?
砂防堰堤は、土石流や崩壊土砂といった山地災害を防止・軽減するために設置される構造物です。
豪雨や地震などにより発生した土砂や流木が下流域へ流れ込み、集落や道路などに被害を及ぼすのを未然に防ぐことが主な目的です。
特に、日本のように山が多く、集中豪雨や地震が頻発する地形では、こうした土砂災害のリスクが高く、砂防堰堤の整備は命と暮らしを守る上で非常に重要な施策といえます。
普通のダムとの違いはどこにある?
砂防堰堤とダムは外見こそ似ていますが、その役割は明確に異なります。
ダムは主に水を貯めるための施設であり、発電や農業用水、水道用水、洪水調節など多目的に利用されます。通常は水位を制御するためのゲートが設けられています。
一方、砂防堰堤は土砂や流木を一時的にせき止めるための構造物です。水を貯めることを目的としておらず、水は堤体の下部やスリットなどから自然に流れるように設計されています。
また、ダムは大規模な河川やその支流に建設されるのに対し、砂防堰堤はより小規模な渓流や谷筋といった山間部に設けられる点も大きな違いです。
砂防堰堤の構造と種類
砂防堰堤には、目的や地形に応じてさまざまなタイプがあります。代表的なものには、重力式コンクリート堰堤や鋼製スリット堰堤、透過型堰堤などがあり、それぞれ特長があります。
とくに注目されているのが「スリット型砂防堰堤」です。これは堤体に隙間(スリット)を設け、通常時は水や小さな礫は自然に流し、大規模な土石流が発生したときにはそれを効果的に捕捉できるよう設計されたものです。
これにより、自然環境への影響を極力抑えながら防災効果を発揮できるという利点があります。
動画で確認!堰堤の構造と効果の違い
スリット型と不透過型の違いを、土石流を用いた模型実験で比較しています。構造の違いによる効果の差を視覚的に理解できます。
📺 砂防堰堤(砂防ダム)の比較効果シミュレーションモデル
なぜ砂防堰堤が必要なのか?
近年、気候変動の影響により、短時間に集中する豪雨が増えています。それに伴い、山腹崩壊や土石流による被害も深刻化しています。
こうした状況下で、砂防堰堤は「最前線の防災インフラ」として機能しています。上流で発生した土砂災害を下流に拡大させないため、まずは土砂を一時的に堰き止め、その後の安全な撤去や処理につなげる役割を担います。
また、複数の砂防堰堤を連続的に配置する「連続配置型」の設計によって、一つの堰堤では処理しきれない土砂を段階的に捕捉し、被害の拡大を防ぐ工夫もなされています。
比較まとめ
以下に、砂防堰堤とダムの違いを表形式で整理します。
項目 | 砂防堰堤・砂防ダム | ダム |
---|---|---|
主な目的 | 土石流・土砂災害の防止 | 水の貯留(発電・利水・治水) |
設置場所 | 山間部の渓流や支谷 | 大規模河川や支流 |
通水の仕組み | 水は通す(スリットや排水部から) | 水をため、ゲートで放流を制御 |
貯留対象 | 土砂・流木 | 水 |
構造の特徴 | 開放型、ゲートなしのシンプルな構造 | 閉鎖型、ゲート付きで大規模構造物 |
まとめ:災害から命を守る、縁の下の力持ち
砂防堰堤は、普段は目立つ存在ではありませんが、土砂災害という突発的なリスクから人々の暮らしを守る、極めて重要なインフラです。
その機能を正しく理解することで、私たちは地域の安全や防災のあり方に対して、より深い関心と意識を持つことができるでしょう。自然災害の多い日本において、砂防堰堤はまさに「縁の下の力持ち」として、地域を支え続けています。