道路は日常生活に欠かせないインフラですが、街路と聞くと何となくイメージはできても、明確に説明するのは難しいものです。
「街路って道路と何が違うの?」「同じ道路なのに呼び方が変わる理由は?」と疑問に思う方もいるかと思います。
どちらも“道路”というインフラですが、「どの法律で扱うか」「どういう目的で整備するか」「役割は何か」が異なるのです。
もくじ
1. 街路と道路の違いは?
道路とは
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道路法にもとづいて位置づけられる「一般交通の用に供する道」
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車や歩行者、自転車などが安全に通行するためのインフラ
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高速自動車国道・一般国道・都道府県道・市町村道などの区分がある
街路とは
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都市計画法にもとづいて「都市施設」として計画される道路
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都市の骨格づくり、防災、景観、土地利用など「まちづくり」とセットで考える道路
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自動車専用道路・幹線街路・区画街路・特殊街路などに区分される(法定の種別)
同じ1本の道でも、
「交通のための施設」として見るときは道路、
「まちづくりのための計画施設」として見るときは街路になる。
2. 道路法における「道路」とは?
少しだけ法律の条文に近づいてみます。
道路法第2条では、「道路」を次のように定義しています(要約)。
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一般交通の用に供する道
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トンネル・橋・渡船施設・道路用エレベーター
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ガードレールや標識などの道路附属物
つまり、車道や歩道だけでなく、橋やトンネル、ガードレールなども含めて、交通のために一体となって機能する設備一式が「道路」です。
道路の種類(道路法上)
道路法では、道路は次の4つに分けられます。
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高速自動車国道
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一般国道
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都道府県道
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市町村道
ここでの違いは、
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どのレベルのネットワークを支えるか
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誰が管理するか(国・都道府県・市町村)
といった行政上の区分が中心です。
参考動画 道路がどのようにできるのか
道路工事の流れ(路盤→舗装→仕上げ)が実際の映像でわかりやすく紹介されています。
3. 都市計画法における「街路」とは?
一方、都市計画法の世界では、道路は「都市施設」として扱われます。
都市施設には、たとえば
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道路
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公園
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鉄道
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下水道
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駐車場
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緑地
などが含まれていて、その中の「道路」が、実務上街路と呼ばれています。
街路の定義(実務的な整理)
公的な技術資料などでは、街路はおおむね次のように説明されています。
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一般的には「都市内道路の総称」
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とくに都市内にある道路を、地方部の道路と区別して呼ぶときに使われる言葉
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道路法には「街路」という用語は出てこない
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都市計画法にもとづき、「自動車専用道路・幹線街路・区画街路・特殊街路」という種別で計画される道路を総称して街路と呼ぶ
ポイントは、
「街路」は都市計画の世界のことば
「道路」は道路法の世界のことば
という切り分けです。
4. 都市計画における街路の役割
街路は、単なる「車や人が通れる道」ではなく、都市全体のデザインと密接に関係しています。
代表的な役割
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都市の骨格をつくる
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幹線道路の位置や方向で、街の形や広がり方が大きく変わる
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土地利用を誘導する
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幹線道路沿いに商業・業務地、内側に住宅地、といった構造をつくる軸になる
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防災・減災に役立つ
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延焼を食い止める「防火帯」
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緊急輸送路や避難路
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公共交通の基盤になる
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バス路線やLRTなどの走るルートとして機能する
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歩行者空間・景観の形成
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歩道・街路樹・広場と一体で、街の顔をつくる
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こうした役割を踏まえて、「どこに」「どんな規模で」「どの向きに」道路を通すかを決めるのが、街路計画です。
5. 「都市計画道路」と「街路」の関係
ここでよく混乱しがちなのが、「都市計画道路」と「街路」の関係です。
都市計画道路とは
都市計画道路とは、
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都市計画法に基づいて
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都市施設として
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位置・幅・構造などが都市計画決定された道路
のことです。
街路との関係
整理すると、次のようなイメージになります。
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都市計画法に定める道路の種別
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自動車専用道路
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幹線街路
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区画街路
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特殊街路
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これらをまとめて街路と呼び、
そのうち、都市計画決定された路線を「都市計画道路」と呼んでいます。
さらに、その都市計画道路を実際に整備する事業が「街路事業」です。
街路(都市計画上の道路)
└─ 都市計画道路(計画が決定された路線)
└─ 街路事業(整備工事として動き出した部分)
6. 街路の種別と役割
都市計画に定める道路(街路)は、主に次の4種類に分けられます。
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自動車専用道路
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高速道路のように、自動車専用で高規格な道路
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幹線街路
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都市全体の骨格をつくる、交通量の多い幹線道路
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区画街路
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主に住宅地などで、区画道路・生活道路として機能する道路
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特殊街路
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歩行者専用道路など、特殊な機能を持つ街路
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自治体によっては、幹線街路をさらに
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〇号幹線
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補助幹線街路
のように細かく区分して、ネットワーク全体の役割分担を明確にしているところもあります。
7. 道路法上の「道路の種類」との違い
ここで一度、「道路法の世界」と見比べてみます。
道路法の分類(おさらい)
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高速自動車国道
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一般国道
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都道府県道
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市町村道
これは「だれが管理するどんなレベルの道路か」を決めるための区分です。
街路との対比
| 見る観点 | 街路(都市計画法) | 道路(道路法) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 都市の骨格づくり・まちづくり | 交通の安全・円滑な確保 |
| 法律 | 都市計画法 | 道路法 |
| 主な分類軸 | 自専道・幹線・区画・特殊街路など | 国道・都道府県道・市町村道 |
| 担当部局 | 都市計画部局・都市整備部局など | 道路管理者(国・都道府県・市町村) |
| 性格 | 計画上の位置付け(将来像を含む) | 管理・維持・構造・占用などの実務 |
同じ舗装された道でも、
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都市計画図を見ると「幹線街路〇号」
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道路台帳を見ると「県道△号」
のように、違う名前が付いていることがよくあります。
これは「間違い」ではなく、**法律と役割が違うために生じる“二重の顔”**です。
8. 街路整備が必要とされる理由
では、なぜわざわざ街路として計画・整備するのでしょうか。
主な理由
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都市の骨格をコントロールするため
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どこを幹線にするかで、交通流・商業地・住宅地の位置関係が決まる
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将来の都市構造を見据えた投資のため
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人口減少や高齢化、公共交通の再編も見越して路線と断面を決める
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防災・減災のため
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木造密集市街地の延焼を遮る「防災街路」
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緊急輸送路・避難路としての機能
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歩行者・自転車の安全のため
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歩道や自転車道、バリアフリー化などをまとめて考えやすい
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公共交通・まちのにぎわいのため
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LRT・バスなどと歩行者空間、沿道の土地利用を一体的に設計できる
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こうした役割を果たすため、街路は「単なる車の通り道」ではなく、都市の将来像を形にするツールとして位置づけられています。
9. 街路事業と道路事業の違い(ざっくり)
実際に工事を動かす段階になると、「街路事業」と「道路事業」という区分も出てきます。
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街路事業
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都市計画法第59条の認可を受けた都市計画事業
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都市計画道路(街路)を整備する事業
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道路事業
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道路法にもとづき道路管理者が行う事業
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バイパス整備や一般道の拡幅など、都市計画決定を伴わないものも含む
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都市部の都市計画道路の整備などは、「街路事業」として行われることが多く、
郊外のバイパスなどは「道路事業」として進められることが多い、というイメージです。
10. 都市の実例から見る「街路」と「道路」
最後に、街路と道路の違いがイメージしやすくなるような典型的なパターンを挙げます。
例1:駅前広場と放射状の幹線街路
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駅前にロータリー(駅前広場)
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そこから数本の幹線街路が放射状に伸びる構造
これは「鉄道駅+街路計画」で、都市の骨格を意図的につくっている典型例です。
例2:防災街路(延焼遮断帯)
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木造密集市街地の中に、幅員20〜30mの幹線街路を通し、
沿道の不燃化と合わせて延焼遮断帯を形成する
ここでは、単に「車が走れるか」ではなく、「火災がどこまで広がるか」まで考えた街路整備になっています。
例3:郊外のバイパス道路
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国道の渋滞区間を避けるために、郊外にバイパスを整備する
この場合は、「交通の円滑化」が主目的であり、道路法上の道路事業として進められることが多い例です。
まとめ
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道路
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道路法の世界のことば
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一般交通の用に供する道+橋・トンネル・附属物
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高速道路・国道・県道・市道などに分類され、主に「交通」と「管理」がテーマ
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街路
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都市計画法の世界のことば(実務用語)
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都市施設として計画される道路(自専道・幹線・区画・特殊街路)
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都市の骨格、防災、景観、土地利用、公共交通など「まちづくり」とセットで考える
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同じ「道」でも、
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交通の視点から見れば「道路」、
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都市計画の視点から見れば「街路」。
この二つの顔を意識しておくと、ニュースや行政資料を読むときに「何の話をしているのか」が格段にわかりやすくなります。